サステナビリティ

社外取締役対談

座談会

Q1:長期ビジョン2028の進捗について、どのように評価していますか?

三和
「2023中期経営計画」の最終年度となる2023年度の業績は、売上高・営業利益ともに過去最高を達成しました。この業績だけを見ると、長期ビジョン達成への道のりは順調のように思われるかもしれませんが、私は浮かれてはならないと考えています。実際、「2023中期経営計画」の取り組みを振り返ると、さまざま課題が浮き彫りになってきます。

なかでも最大の課題が海外事業の収益力です。2023年度の末にようやく回復してきたものの、一時はコロナ禍やサイバーインシデントなどの影響を受けて大きく落ち込みました。

海外事業の課題をもう少し深掘りすると、積極的なM&Aを進めた結果、無形固定資産が膨らんでいます。それとともにのれんの償却額も増加しており、今後はこの資産から確かな収益をあげていく必要があります。つまり、M&Aや資本業務提携を行った企業とのシナジーをいかに最大化していくかが収益力を高める鍵になるのです。

内田
三和さんがおっしゃるように、「2023中期経営計画」から「2026中期経営計画」へと移行した今、取り組むべき課題がとても明確になったように感じています。戦略的にM&Aを進めてきた姿勢は評価すべきでしょう。しかし、それを収益に結びつけていくためにはさらなる工夫が必要です。新規事業についても、種蒔きをすませて育てていこうという段階ですが、まだ育ち盛りというところまではいっていません。

シナジーの発揮ということでは、M&A後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が非常に重要となります。海外・国内という枠組みを超え、オール・グローリーとしてシナジーを最大化していくべきです。

一方、既存事業については、2023年度に過去最高の業績を達成したように力強いものがあります。この事業基盤を継承しつつ、将来を見据えていかに革新していくかがこれからの重要なテーマとなると思っています。

井城
確かにいろいろ課題は残されているものの、私は、「2023中期経営計画」の目標を達成したことは高く評価すべきだと考えています。コロナ禍や半導体不足といった厳しい事業環境に直面しながらも、戦略的にM&Aを進め、国家プロジェクトともいえる新紙幣発行にも着実に対応しています。

内田
前向きに評価すべきということでは、新しい市場として飲食市場が立ち上がり、グローリーが進むべき方向性が定まりつつあることもあげられると思います。オール・グローリーとしてグローバルにビジネスを展開していくのだという姿勢が明確になってきた印象です。

井城
私も、リテールと金融という既存市場に続く新しい柱が立ち上がりつつあることは評価しています。ソフトウェアプラットフォームでこれらを横断的につなげていこうという取り組みも始まっています。長期ビジョンの達成に向けて着実に力を培っているという手応えがあり、とても楽しみです。

三和
長期ビジョンでは、2028年度に売上高5,000億円規模という目標を掲げています。かなり挑戦的な目標ではありますが、今話題に出てきたような課題に対応できれば、達成も可能ではないかと考えています。

Q2:「2026中期経営計画」の策定において、取締役会でどのような議論を重ねたのでしょうか?

三和
新しい「2026中期経営計画」の策定にあたっては、取締役会でもさまざまな議論を重ねました。その中でも最大のポイントとなったのは、マインドセットの転換だったと思います。これまで日本を中心としていたビジネスに対する考え方をリセットし、もっと大きなグローバルな視点から考えていこう、これからのビジネスを育てていくべきだという意見が、特に社外取締役を中心に多く出されました。このような取り組みはこれまでもそれなりに進められてはきたと思うのですが、さらにスピード感を持って進めていこうということです。「トランスフォーメーション」をコンセプトに掲げる新しい中期経営計画では、事業部ばかりでなく、コーポレート部門のグローバル化という変革も早急に取り組むべきテーマの一つだと考えています。

内田
財務的な面からトランスフォーメーションの話をすると、これまでグローリーは、わかりやすく言うなら「いかに売って稼ぐか」という売上重視の発想だったわけです。そうではなく、しかるべきところにお金をかけてちゃんとリターンを得る。つまり、「稼ぐ力」を高め、ROICを意識したビジネスに変えていこうというところがポイントだと思います。

このような目線からビジネスを俯瞰すると、従来のような海外・国内といった線引きはもう必要がなくなるわけです。そこで三和さんがおっしゃるグローバルな視点が大切になってくる。どこでビジネスをやることがリターンにつながるのか?どういう技術が今一番果実を生むのか?どのような人材を育てるべきなのか?「2026中期経営計画」の策定では、このようなことを意識して議論を進めました。

井城
私が意識したのは、先ほども話したようにリテールと金融、さらには飲食という3つの市場に、横串としてDXビジネスやソフトウェアプラットフォームをいかに融合させていくかということです。

三和
DXということで一つ課題をあげるとすると、金融分野のコアとなる通貨処理機事業です。これらの製品をIoT化し、共通のソフトウェアプラットフォームでつなげることによってさまざまなソリューションの提供が可能になります。

このような革新を、海外・国内にとらわれずグローバルに進めていかなければなりません。たとえば飲食市場では、アクレレックを起点として、グローバルなビジネス体制が出来上がりつつあります。リテールや金融でも同じようなチャレンジをしていくべきです。これまで進めてきたM&Aなどによって、主だったピースは揃いつつあると思います。「2026中期経営計画」では、それらを融合させて利益を最大化していくことが重要になります。

井城
新中期経営計画でもう一つ私が注視したいと思っているのは人材戦略です。事業にしろ、技術にしろ、新しい領域に挑んでいくためには担い手となる人材の確保や育成が決め手となります。2024年4月には、若い従業員が意欲を持ってチャレンジできる環境を整えるべく、人事制度や教育環境を刷新しました。従業員の成長をより後押しできる環境が整ったため、これからの活躍に大いに期待しています。

Q3:新社長の選定にあたって、指名諮問委員会が果たした役割やプロセスについて教えてください。

井城
今日集まった3人は新社長を選定したときの指名諮問委員会のメンバーです。私が委員長を拝命しており、新社長の選定にあたっての議論は、2021年後半頃から始め、選定の進め方や候補者の絞り込みなどを話し合い、2年ほどかけて候補者の選定プロセスを進めました。具体的には候補者を2段階で絞り、最終的には11回にわたって候補者にインタビューを行いました。そのようなプロセスを経て、今年1月に指名諮問委員会としても原田新社長の選任案に賛同し、2月の取締役会決議にて選定されました。

三和
私の方から少し補足をすると、指名諮問委員会で検討する候補者については、あらかじめ社内で多面的かつ客観的な評価を行ったうえで委員会に諮問してほしいとのご意見があり、そのようなプロセスで進めました。

社長交代の時期は、新しい「2026中期経営計画」がスタートするタイミングに合わせました。2023年度は新紙幣発行に伴う需要増大を受けて次第にV字回復が確実になってきた一方で、飲食をはじめとする新規市場が立ち上がり、レスキャッシュやデジタル化が加速するなど事業環境も大きく変化しつつありました。そこで2024年度からの交代が最適だと判断したのです。

内田
三和さんがおっしゃるように、グローリーは大きな転換点に立っているというのが、指名諮問委員会のメンバー共通の認識だったと思います。先ほどから話しているように、これからグローリーが新たな成長を遂げていくためには、グローバルな変革に取り組んでいかなければならないわけです。これらの変革を牽引できる人、リーダーシップを発揮できる人という観点で選定が進められていったように思います。

井城
今お二人が話したことに私なりに少しだけ加えると、現在グローリーが直面している状況に対して危機感を持っていることが重要である、という点も意識しました。危機感を抱いていればおのずとリーダーシップも発揮され、変革のスピードも加速すると考えたのです。

Q4:長期ビジョン2028、さらにその先をグローリーの成長に向けて、期待と課題についてお話しください。

内田
グローリーがこれからトランスフォーメーションに挑んでいくためには、ビジネスの第一線である「現場」で変化を引き起こしていくことが重要です。第一線に立つ従業員が、新しいビジネスや技術にチャレンジしてみようと前向きな気持ちになる、マインドセットの変革が鍵を握るわけです。そのためには、経営をはじめマネジメントの各層が変革を唱えるばかりでなく、従業員と一緒になって実践していくことが欠かせないと思っています。

また、組織のあり方もおのずと変わっていくはずです。これまでグローリーにはメーカー特有の階層的な文化があったように思います。しかし、これからはデジタル化やソフトウェアプラットフォームの広がりにあわせて、もっとフラットな組織へと再構築していかなければなりません。さまざまなチームがフラットな関係で連携し刺激しあいながら成長していくような組織です。

企業には3つの層での競争が大切だといわれます。経営、チーム、そして第一線での競争です。この中でも特にチームの競争で勝てるような強く斬新な組織を世界中で実現してほしい。従業員一人ひとりが前向きなマインドセットを抱き、「グローリーはよい会社だな」と実感できるような企業グループを目指してほしいと思っています。

井城
これまでも話してきたように、リテール・金融・飲食という3つの事業とソフトウェアプラットフォームを融合させていこうという、グローリーの未来像はおおよそ描けてきたと私は感じています。これからはさらに変革を進め、その輪郭を確かなものにしていくことが大切です。

内田さんが話された人材の育成や組織の改革、あるいは三和さんが指摘したコーポレート部門のグローバル化、さらにはソフトウェアプラットフォームの強化や保守サービスのソリューション化など、取り組むべき課題が多く残されていることも確かです。しかし、これらの改革を「2026中期経営計画」で前進させることができれば、非常に大きな成長が期待できるのではないでしょうか。私は、グローリーの未来をとても楽しみにしています。

内田
経営のトランスフォームという視点でここ数年を評価すると、女性取締役の増加、外国人(英国籍)の社外取締役の就任など、取締役会のダイバーシティが進み、バランスのとれた取締役会になってきたと感じています。取締役それぞれが持つ専門性や知識、経験を基に充実した議論を行うことで、取締役会の実効性がさらに高まることを期待しています。

三和
今後、私は、業務執行についてはできるだけ社長をはじめとする役員たちに任せ、コーポレート・ガバナンスをはじめリスクに関わるマネジメントに力を注いでいこうと考えています。そのガバナンスにも関連する改革として、先ほども話に出ましたが、2024年度から執行役員制度を刷新し、役員数も減らしてフラットな組織にしました。報酬制度も業績連動性をより高めたものへと変えています。従業員のマインドセットを変革していくためには、まず経営層が先頭に立って変わっていかなければなりません。

また、もう一つ私が気にかけたいと思っていることが、日本国内の従業員のマインドセットです。グループ全体で約5,000人が日本で働いています。グローバルなトランスフォーメーションを進めていくとなると、どうしても海外に目線がいきがちで、国内の従業員が取り残されるような気持ちを抱くのではないかと少し心配しています。オール・グローリーとして、誰一人取り残されることなく成長していけるような環境を整えていきたいと考えています。