就任1年目であった2024年度は、株主、投資家の皆さま、お客さま、そして従業員との対話を通じて、寄せられるご期待にどう応えるべきか、そしてどのようにして企業価値を高めるべきかをこれまで以上に深く考える1年となりました。
社長就任前は、取締役としての役割に加え、業務執行の主要な役割として海外事業の成長に携わっていたこともあり、直接投資家やアナリストの皆さまのご意見をお聞きする機会はありませんでした。しかしながら就任後は、社長として積極的に皆さまとの対話を重ねることにより、資本市場における当社グループへの期待や視点を肌で感じ、理解を深めることができました。こうした対話を通じて得た多くの示唆、いただいたアドバイスやヒントをもとに、経営改善の方向性を定め、具体的な対応策を練り、就任1年後の2025年3月期の決算発表時には、中期経営計画で掲げた目標達成のための具体的な施策、人的資本経営の取り組みなど、企業価値向上に向けた活動内容を充実させてきました。また、株主還元の強化を大方針として掲げ、新たに「総還元性向100%以上(2年間)」を追加し、増配、そして自己株式の取得と消却を決定するなど、資本効率を意識した経営に真摯に取り組みました。さらに、当社グループにおける海外売上高比率が大きく上昇する中、国際的な基準で情報提供するため、国際財務報告基準(IFRS会計基準)の任意適用も決定しました。
一方で、海外事業を長く担当してきた私はこれまで国内市場のお客さまと直接お会いする機会がなかったため、積極的に全国を回り、お客さまとお会いし、ご要望などをお聞きしてまいりました。なかでも印象的だったのは、2024年7月の新紙幣発行に際し、製品の更新や改造作業をスムーズに対応できたことに対して、お客さまから「さすがグローリーですね」と高く評価していただいたことです。また、お客さま訪問時や展示会等でも、お客さまご自身の業務課題に関するご相談を数多く頂戴し、当社グループが真摯に対応できていることについて、絶大なる信頼を頂けていること、また国内市場における当社グループのプレゼンスの高さを改めて実感しました。
また、この1年は、グループ従業員とのコミュニケーションにも注力しました。私は「突撃訪問」と名付けていますが、当社の支店、営業所のみならず、国内外のグループ会社を事前アポイントなしに訪問してきました。従業員は突然の社長訪問に驚いたようですが、私は現場の皆さんと直接会話することで、自分の目と耳で飾りのない常日頃の現場の様子を把握することができました。また、従業員の顔を見ることで、職場の雰囲気や困りごとを認識することもでき、これらは私にとって多くの学びとなりました。世界各国には訪れていない拠点や現場がまだまだ沢山ありますので、継続していきたいと考えています。さらに、私の考えや思いを従業員に伝えるために、イントラネットでも社長コラムを週に1回のペースで発信し続けています。従業員から寄せられる意見や感想を毎回楽しみにしています。
2024年度は世界中で著しい変化が見られた年でした。日本では、20年ぶりに新紙幣が発行され、当社グループの事業活動や業績に大きなインパクトを与えました。国内の金融、流通・交通、遊技の各市場においては、人件費高騰や人手不足、業務効率化のニーズの高まりがあり、これらを背景に業務効率化を実現するソリューションの導入や少人数で運営できる次世代店舗づくりが一層進むことが予想されます。
世界に目を向けると、インフレにより人件費や物価の高騰が進んでいます。しかし、このような変化は、当社グループにとって、リテール店舗や金融機関、飲食店の業務効率化に貢献できる製品・サービス・ソリューションをお客さまに提供するチャンスであると言えます。
一方、米国の通商政策による業績への影響が懸念されます。米国政府の関税措置は日々変動しており、現時点でその正確な影響額を予測することは困難です。そのため、2025年度の業績予想数値にはこの影響を織り込んでいません。今後、開示すべき事項が生じた場合には、速やかにご報告申しあげます。
2024年4月にスタートした「2026中期経営計画」は、「GLORY TRANSFORMATION 2026-お客さまとともに未来を創造するグローリー」をコンセプトに掲げ、4つの基本方針に取り組んできました。初年度である2024年度は、効率性指標(ROE・ROIC・ROA)やPL指標(営業利益・売上高・新領域事業売上高)すべてにおいて目標を大きく上回りました。
国内市場では、2023年度の金融市場に続き、流通・交通市場でも新紙幣対応を完了し、通貨処理における社会インフラを担う企業としての社会的使命を果たすことができました。さらに、流通・交通市場においては、コンビニエンスストアや衣料品店等へのセルフ型レジつり銭機の展開が拡大しました。
海外市場では、リテール市場向け現金管理ソリューションの販売や保守売上高が増加し、売上高は過去最高の2,100億円となりました。直近4年間で海外事業の売上高は倍増しており、これは世界No.1のリテーラーをはじめとする大口顧客などを獲得していることが背景にあります。海外事業の比重が増せば、為替レートの影響が避けられないため、為替ヘッジや為替予約等の施策を講じて、リスクを最小限に抑える方針です。
成長エンジンの一つである飲食市場においても、日本のショーケースギグ社やフランスのアクレレック社とともに、ソフトウェアプラットフォームを活用した、注文、決済、受取を自動化するソリューションの提供を加速しました。世界有数ブランドのお客さまも獲得しており、今後さらなる成長が見込めると期待しています。
『企業価値の向上』と『PBR1倍以上』を早期に実現するため、3つの経営課題に取り組んでいます。
1つ目は、海外事業の営業利益率の回復です。海外事業は近年大きく成長を遂げていますが、営業利益率は、2020年度から2022年度にかけてCOVID-19の蔓延、半導体の供給不足、部品価格の高騰等、複数の要因が重なり、一時的に下落しました。現在はこれらの影響も収束し、営業利益率は回復傾向にあります。 2025年度にはさらなる回復が見込まれており、各種施策の実行や買収企業とのシナジーによる収益拡大、成長エンジンと位置付ける米州事業の高収益化の実現により、営業利益率の向上を目指します。
2つ目は、適切な販売価格の設定による利益確保です。インフレ進行や米国の通商政策に伴うコスト増加分は、販売価格や保守価格に反映していきます。各国でインフレが進行していますが、インフレ率の上昇は我々一般企業ではコントロールできません。このインフレ影響を受けることで、人件費や経費などの固定費が上昇し、購入材料費も増加することで製造原価も上がります。改善活動や購買活動を通じて日々製造コストの削減に取り組んでいますが、それを上回るコスト上昇が生じた場合、利益減少は避けられません。こうしたコスト増加分については販売価格に反映させ、適切な利益を確保していきます。
最後に、キャッシュレス浸透に対する当社の考え方とビジョンの明示です。世界主要国のキャッシュレス決済比率は平均50%を超え、日本でも36%まで上昇しています。将来的に世の中から現金決済がなくなることはないと予測しておりますが、現金の使用量は徐々に減少していくと見ています。当社グループの成長のために、コア事業である通貨処理事業の維持向上はもちろん、新領域事業を中心とする非現金分野の事業の拡大に取り組み、現金処理事業と非現金事業の『両輪』で成長を図ります。現時点で、非現金事業の売上高はすでに全体の約25%まで伸長しており、今後さらに飲食、リテール市場におけるDXソリューションや、クラウドPOSによるリカーリング収益の拡大などの非現金事業を拡大することで、将来的にコアである貨幣処理事業と非現金事業の比率を50%:50%にすることを目指します。これを実現するために、DX戦略に基づくDX人材の育成にも引き続き注力します。
2024年度は、企業理念体系の見直しの中で「私たちの価値観」を新たに制定した年でもありました。グローリーグループ全体での浸透活動を行っているなかで、私が感じるのは、「私たちの価値観」に基づき期待する行動のうち、「感動と信頼をつくる」は既にグループ全社に浸透し、実践されているということです。どこへ出向いても従業員はひたむきにお客さまのことを考えて、真摯に仕事に取り組んでいると感じます。これは、この価値観をスタートする前から企業文化として深く根付いているものに間違いありません。2025年度からは、「私たちの価値観」に基づき期待する行動を個人の評価基準にも反映しました。挑戦を楽しみ、己を磨き、認め合う。従業員一人ひとりの意識づけが大きなモメンタムを生み、経営課題の解決につながることを確信しています。
冒頭で申しあげた通り、ステークホルダーの皆さまとの対話が当社グループの今後の成長において重要であることは明白です。私は今後も、皆さまからいただいたご意見や提言を取締役会で議論し、経営に反映し続けていく所存です。当社グループは、長期のビジョンを見据え、「2026中期経営計画」の達成に向けて邁進することで、サステナブルな成長を遂げてまいります。
代表取締役社長