人流データとは?取得できるデータの種類と分析方法 COLUMN

人流データ

店舗の売上を伸ばすためにチラシを配布したり、セールを開催したりしても、実際にどれほど効果があったのか把握できていない経営者の方も多いのではないでしょうか。「人流データ」を活用すれば、これまで感覚に頼っていた販促施策の効果を数値で検証できるようになります。
本記事では、人流データの基礎知識から具体的な活用方法まで、小売店経営に役立つ情報を分かりやすく解説します。

目次
そもそも「人流データ」とは?

店舗経営において、来店客の動向を正確に把握することは、売上向上への第一歩です。人流データは、その動向を客観的な数値で捉えることを可能にする強力なツールとなります。

人流データの定義

人流とは、文字通り人の流れや動きのことを指します。特定のエリアにおいて、人々がいつ、どこから来て、どのように移動し、どれくらい滞在しているのかという傾向を示すものです。

そして人流データとは、この人流を数値化・可視化したもので、GPSやWi-Fi、各種センサーなどから取得される位置情報を基に作成されます。 このデータを活用することで、店舗への来店パターンやお客様の行動特性が「見える化」され、具体的な数値として把握できるようになります。

人流データが注目されている理由

小売・飲食業界では、競争激化に伴いデータドリブンな意思決定が主流になりつつあります。人流データの最大の魅力は、 来店傾向や販促効果を可視化できる点にあります。

従来、新規出店や販促キャンペーンの企画は、担当者の経験や勘に頼る部分が大きく、「なんとなく良さそう」という期待感で進められることも少なくありませんでした。しかし、人流データを活用すれば、例えば「金曜日の18時から20時にかけて30代女性の来店が40%増加した」といった具体的な傾向を把握できます。

このような客観的な根拠があれば、ターゲットを絞った効果的な施策が自信を持って実行できるようになります。さらに、施策実施後の効果測定も数値で確認できるため、PDCAサイクルを効率的に回すことが可能となり、継続的な売上改善につなげることができます。

人流データの種類と取得方法

人流データを効果的に活用するためには、まずどのような種類があり、どのように取得できるのかを理解することが重要です。それぞれの特性を知ることで、自店舗の課題解決に最適な手法を選択できます。

分析目的に応じて使い分ける4種類の人流データ

人流データは大きく4つのタイプに分類され、それぞれ異なる特長を持っています。店舗経営においては、知りたい情報に応じて異なる種類の人流データを使い分けることが重要です。

● カウントデータ
● 滞留データ
● ODデータ
● 移動軌跡データ

カウントデータ
カウントデータは、 特定の地点を「何人が通過したか」を計測するデータです。店舗前の通行量調査や、入店率の把握などに活用されます。
例えば、1時間あたりの通行者数が500人、そのうち店舗に入店したのが25人という場合、入店率は5%と算出できます。 この数値を時間帯別・曜日別に分析することで、最も効果的な呼び込みタイミングを特定できます。

滞留データ
滞留データは、 特定のエリアに「何人が、どのくらいの時間滞在したか」を計測するデータです。売場ごとの人気度や混雑状況の把握に役立ちます。
例えば、A売場では平均滞在時間が3分なのに対し、B売場では8分という結果が出た場合、B売場の商品や陳列方法にお客様を引きつける要素があることが分かります。 この情報を基に、人気売場の特長を他の売場にも展開することで、店舗全体の魅力を高めることが期待できます。

ODデータ
ODデータ(Origin-Destination)は、 人々が「どこ(出発地)からどこ(目的地)へ」移動したかを把握するデータです。大まかな人の流れを捉えることに向いており、商圏分析や競合店とのお客様の奪い合い状況を把握する際に活用されます。
例えば、自店舗の来訪者の60%が半径2km圏内から来店していることが分かれば、 その圏内に集中的にチラシを配布することで、広告費用対効果を最大化できます。

移動軌跡データ
移動軌跡データは、 「一人ひとりがどのようなルートで移動したか」を線で捉えるデータです。店内の回遊行動の分析などに活用され、お客様がどの順番で売場を巡り、どこで立ち止まるかを詳細に把握できます。
例えば、入口から青果売場を経由して精肉売場へ向かうお客様が70%、逆ルートが30%という傾向が分かれば、お客様の動線に合わせた商品配置が可能になります。この分析により、 商品の配置やPOPの設置場所を最適化し、計画的な動線設計によって、ついで買いや衝動買いを促すことができます。

人流データを収集する主な技術

人流データの収集には、複数の技術が使われており、それぞれに特長があります。店舗の規模や分析目的に応じて、最適な技術を選択することが重要です。

技術 特長
GPS(全地球測位システム) スマートフォンに標準搭載され、数メートル単位の高精度な位置情報を取得。屋外での位置特定に優れているが、建物内では精度が低下する
Wi-Fi アクセスポイント 商業施設のWi-Fi接続情報から屋内での位置を把握。来店者の平均滞在時間やリピート率の分析に有効だが、Wi-Fi非接続の端末は検知できない
BLE Beacon(Bluetooth) 半径数十メートルの近距離で位置を検知。店舗入口や特定売場でのピンポイント検知に適しているが、専用アプリのインストールが必要
携帯電話基地局 携帯キャリアの通信情報から広域の人口分布を推計。カバー範囲が広く24時間365日データ取得可能だが、位置精度は数百メートル~1キロメートル程度

これらの技術を組み合わせることで、屋外から屋内まで途切れることなく人流を追跡でき、お客様の行動を立体的に把握できます。例えば、GPSで商圏からの来店を追跡し、Wi-Fiで店内の滞在時間を計測、Beaconで特定売場での購買行動を分析するという使い分けが効果的です。

人流データで分かることとは?3つの活用メリット

人流データを活用することで、店舗運営における様々な課題解決が可能になります。ここでは、特に重要な3つのメリットについて具体的に解説します。

● 顧客層と集客エリアの可視化
● 店舗・施設内の動線と滞留状況の把握
● 販促施策の客観的な効果測定

顧客層と集客エリアの可視化

人流データによって、 店舗の来訪者が「どのエリアから」「どのような属性の人が」来ているのかを正確に把握できます。例えば、「駅前の店舗なのに、実は隣の駅からの来訪者が30%を占めていた」「平日昼間は主婦層が中心と思っていたら、実際は高齢者が60%だった」など、予想外の発見があることも珍しくありません。

これまで感覚で捉えていたお客様像や商圏をデータで裏付けることで、広告配信エリアの最適化や、ターゲット層に合わせた品揃えの調整が可能になります。

店舗・施設内の動線と滞留状況の把握

お客様が店内をどのように動き回り(動線)、どの売場で長く時間を過ごしているか(滞留時間)を分析できます。この分析により、例えば「入口から見て右側の通路は通行量が左側の3倍」「レジ前での滞留時間が長すぎて離脱率が15%」といった具体的な課題が見えてきます。

これにより、商品棚のレイアウト改善や店頭POPの最適な設置場所の特定、さらにはピーク時間帯へのスタッフの重点配置など、データに基づいた店舗改善が実現できます。

販促施策の客観的な効果測定

セールやイベント開催の前後で、 来訪者数や顧客層にどのような変化があったかをデータで比較・検証できます。例えば、「土曜日の特売セールで来店者数は20%増加したが、客単価は15%低下した」といった詳細な分析が可能です。

これにより「今回のキャンペーンは成功だったのか」を売上だけでなく多角的に評価し、次回の企画改善や予算配分の最適化につなげることができます。

人流分析を始めるためのステップ

人流データの活用は、正しい手順を踏むことで初めて成果につながります。以下の3つのステップを着実に進めることが成功の鍵となります。

ステップ1.分析の目的を明確にする

人流分析において最も重要なのは、 「何を知りたいのか」「何のためのデータか」という目的を最初に明確に設定することです。例えば、「20代の新規のお客様を増やすための効果的な販促エリアを特定したい」「土曜日夕方のレジ前混雑を緩和して機会損失を減らしたい」など、 具体的な課題設定があれば、必要なデータの種類や分析手法が自ずと決まり、効率的な改善活動に繋げられます。

ステップ2.必要なデータを取得する

目的に合ったデータを どうやって手に入れるかを検討します。現在は、通信キャリアや専門企業が提供する人流分析ツールを導入する方法が一般的です。これらのツールは既に膨大なデータを保有しており、 自社で一からデータ収集の仕組みを構築するよりも、短期間で分析を開始でき、初期投資も抑えられます。

ステップ3.データを可視化・分析し、施策につなげる

取得したデータを地図上のヒートマップやグラフなどで 可視化し、傾向を読み解きます。重要なのは、分析で終わらせないことです。

例えば「平日17時から19時は30代主婦層の来店が多い」という分析結果が出たら、「その時間帯に夕食材料の特売を実施する」「調理時間を短縮できる時短商品を目立つ場所に配置する」といった 具体的なアクションにつなげることで、初めて売上向上という成果が得られます。

人流データを扱う際の注意点

人流データは強力なツールですが、適切に扱わなければ期待した成果が得られないだけでなく、トラブルの原因にもなりかねません。

個人情報保護とプライバシーに配慮する

人流データは 個人の行動履歴に関わる情報であり、プライバシーへの配慮が不可欠です。データ提供企業は通常、個人を特定できない形に匿名化処理を施していますが、 利用する側も個人情報保護法を遵守し、データの管理や利用目的を明確にして、お客様からの信頼を損なわない運用が求められます。

データだけで判断しない

データは万能ではなく、 最終的な判断には現場の知見が不可欠です。例えば、「データ上ではA地点の通行量が多いが、現場のスタッフは『それは通勤の通り道になっているだけで、立ち寄る人は少ない』と知っている」といったケースもあります。

データが示す数値の背景にある理由を現場の声から探り、 データと現場感覚を組み合わせることで、より精度の高い意思決定が可能になります。

人流データに関するよくある質問

人流データの導入を検討する際によく寄せられる質問について、実務的な観点からお答えします。

人流データは無料で手に入る?

国土交通省が 「全国の人流オープンデータ」を公開しており、主要都市の人流傾向を無料で確認できます。

出典: 国土交通省 G空間情報センター「全国の人流オープンデータ」

ただし、 特定の店舗周辺や詳細な時間帯・属性別の分析には、民間企業が提供する専門ツールの高精度なデータが必要になるケースが多く、月額数万円から数十万円の費用が一般的です。

人流データの課題は?

人流データは膨大かつ複雑で、適切な分析には専門知識やスキルが必要です。単にデータを眺めていても有益な示唆は得られません。活用するためには、統計的な処理や他のデータとの組み合わせが求められます。

また、 個人情報保護の観点から、データの取り扱いには細心の注意が必要で、社内での管理体制整備も欠かせません。

まとめ

人流データは、人々の移動や滞在の状況を数値化・可視化したもので、店舗経営における強力な意思決定ツールとなります。カウントデータ、滞留データ、ODデータ、移動軌跡データという4種類のデータを目的に応じて使い分け、GPSやWi-Fi、Beaconなどの技術で収集されたデータを分析することで、顧客層や集客エリアの可視化、店内動線の最適化、販促施策の効果測定が可能になります。

ただし、人流データを効果的に活用するためには、明確な目的設定から始め、適切なデータの取得、そして具体的な施策への落とし込みという手順を踏むことが重要です。また、プライバシーへの配慮を忘れず、データと現場の知見を組み合わせることで、より実効性の高い店舗改善が実現できます。

人流データの活用は、もはや大企業だけの特権ではありません。地域密着型の商業施設や多店舗展開する小売店においても、データドリブンな経営判断により競合との差別化を図ることができます。まずは自店舗が抱える具体的な課題を整理し、その解決に向けて人流データの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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